森達也、片渕須直、小島秀夫、原一男、丸山ゴンザレスらは「マリウポリの20日間」に何を感じたのか?コメント公開

2024年4月26日 11:00


公開中
(C)2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

ロシアによるウクライナ侵攻開始からマリウポリ壊滅までの20日間を記録したドキュメンタリー「マリウポリの20日間」が、4月26日に劇場公開を迎えた。

2022年2月、ロシアがウクライナ東部マリウポリに侵攻開始。本作は、戦火に晒された人々の惨状をAP通信取材班が命がけで撮影を敢行、決死の脱出劇の末に世界へと発信された奇跡の記録映像をもとに制作された作品だ。第96回アカデミー賞では、長編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。

監督を務めたのは、ジャーナリストのミスティスラフ・チェルノフ。アカデミー授賞式の壇上では「おそらく私はこの壇上で、この映画が作られなければ良かった、などと言う最初の監督になるだろう」と語り、大きな反響を呼んだ。

このほど、映画監督・作家の森達也(「福田村事件」)、アニメーション映画監督の片渕須直(「この世界の片隅に」)、ドキュメンタリー監督の大島新(「なぜ君は総理大臣になれないのか」)、映画監督の原一男(「水俣曼荼羅」)、ゲームクリエイター・小島秀夫、ジャーナリストの丸山ゴンザレスら著名人総勢11名からコメントが到着。本作と対峙した際の“思い”を明かしている。



(C)2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation
大島新(ドキュメンタリー監督)】

報道は、世界を良き方向に変えられるのか。その葛藤に苦しみながらも、伝えなければならないとカメラを回す取材班の使命感と勇気に、うちのめされ、言葉もない。

この「作られなければ良かった映画」は、戦場の惨禍を決して忘れてはならないという、世界への痛切なメッセージである。

【岡部芳彦(ウクライナ研究会会長/神戸学院大学教授)】

この作品は、マリウポリの街で何が起こったのか、またロシアによるウクライナ侵略の実態を永遠に目の当たりにすることができる貴重な記録である。

片渕須直(アニメーション映画監督)】

たくさんの顔が去来する。自分たちの街なのだから、と思ううちに逃げ場を失った人々。持ち場を護るしかない医療関係者、公務員たち。生命を奪われた人々。損ねられたたくさんの人生の可能性。彼らの顔がいつまでも去らない。

(C)2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation
小島秀夫(ゲームクリエイター)】

新たな戦争や、相次ぐ大地震などの災害報道に上書きされたが、今もウクライナでは戦争が続いている。ロシアのウクライナ侵攻直後からマリウポリを脱出するまでの、20日間に渡る決死の映像。電話やインターネットを遮断され、世界から隔離されていた内側で拡がる“終わりなき戦争”の姿を世界に伝えるドキュメンタリー。SNSから雪崩れ込むフェイクニュースを聴き流している我々に、あらためてジャーナリズムの真意と戦争の本質を問いかける。

駒井尚文(映画.com編集長)】

フルメタル・ジャケット」「プライベート・ライアン」「ダンケルク」……。この映画は、巨匠たちの戦争映画よりも遙かにリアルで、無慈悲なまでに残酷です。何しろ、舞台の殆どが「戦場」ではなく「市街地」なのです。しかし、その光景を世界に伝えなければならないという撮影クルーの使命感には脱帽しかありません。アカデミー賞は妥当、ピュリッツァー賞も妥当。この映画が、多くの観客に届くことを祈ります。

佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)】

映画は最初から終わりまで、呻くような苦痛と悲哀に満ちている。それでも「これは観なければいけない」と強く説得力を持たせているのは、そこにチェルノフ監督の当事者としての視点と、自身が苦しみながら撮影している圧倒的な誠実さがあるからだろう。

(C)2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation
原一男(映画監督)】

ロシアのウクライナ侵攻を記録した映像作品の中でも、この作品ほど、母親と子どもたちが殺されていく場面を多く収めたものは、ないはずだ。切なさのあまりほとんど全編を心が震えて私は泣きながら観ていた。とりわけ瀕死の妊婦が担架で運ばれている場面は、私の脳裏に焼きついて、柊生、忘れることはないだろう。今、この膨大な死者たちの映像は、たまたま生きて彼ら死者たちの映像を見ている観客の私たちに何を伝えたいのか? 理不尽、残酷、無慈悲な死。ならば、ウクライナと反対側の地に生きている私たちとは無縁のことなのか? マウリポリの死者たちの黙示録として、この作品を観るべきではないのか?

廣瀬陽子(慶應義塾大学 教授)】

この映画の多くの映像や写真はウクライナ戦争の報道で用いられていた。

我々は本映画のパーツを何度も見ていたはずだが、そこからは、映像がいかに過酷な戦場で撮影され、厳しいオンライン環境の中で細切れにされた状態で本社に送られ、世界に発信されたかは見えてこない。この映画はそのような戦場の現実もすべて我々に教えてくれる。

【丸山ゴンザレス(ジャーナリスト)】

怒り、不安、絶望、吐き気、混乱、正義、矛盾、無力……。人間の本性を引きずり出し記録した極限の戦場ドキュメンタリー作品。この作品は握る側の行動で価値が変わっていくバトンである。私たちは、それぞれが賛同する意見や己の行動がどこに向かうのか考え続けるしかないのだ。

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森達也(映画監督/作家)】

メディアで再現される戦場は、戦場の轟音や爆発音、悲鳴や絶叫ばかりが誇張され、僕たちから切り離された異空間となる。 だからこそ本作を見ながら考える。戦争は僕たちが繰り返す日常の延長線上にある。家族とおしゃべりしたり友人たちと酒場に行ったり恋人と映画館に行ったり、その延長に戦争がある。切り離されていない。僕たちは同時代の座標軸にいる。

山崎雅弘(戦史・紛争史研究)】

意味もわからぬまま、日常生活を粉々に破壊されて悲しむ人々の姿を見るのは、胸が痛む。だがそれでも、我々は事実を直視してその重さを考え、行動しなくてはならない。
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