コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第130回

2024年4月25日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

第77回カンヌ国際映画祭コンペ追加作品発表 ポスターは黒澤明八月の狂詩曲」を用いたデザイン、VR作品部門を新設

今年のカンヌ映画祭ポスター
今年のカンヌ映画祭ポスター

4月11日に行われたカンヌ国際映画祭のラインナップ発表会見で予告されていた、追加作品が発表になった。コンペティションへの3本をはじめ、各部門を総合すると13本も増加。これでカンヌ・クラシック部門を除いては、ラインナップが出揃ったようだ。

コンペテイションに加わったのは、噂にのぼっていたミシェル・アザナビシウスのアニメーション映画「La plus précieuse des marchandises」、「悪は存在せず」(2020)でベルリン国際映画祭金熊賞に輝いたイランのモハマド・ラスロフの「The Seed of the Sacred Fig」、ルーマニアの監督、脚本家、俳優であるエマニュエル・パルヴュの「Three Kilometres to the End of the World」。アウト・オブ・コンペティションには今年のフランス映画の大作として期待されている、ピエール・ニネ主演の「Le Comte de Monte-Cristo(モンテ・クリスト伯)」の1本、カンヌ・プレミアにはフランスの気鋭監督ふたり、ガエル・モレルとジェシカ・パリュの新作が加わった(後者は女優マリア・シュナイダーの手記に基づく伝記映画)。

スペシャル・スクリーニングは4本追加で、アルノー・デプレシャンの自伝的キャラクターであるポール・デダリュ・シリーズの最新作、オリバー・ストーンによるブラジルのルーラ・ダ・シルヴァ大統領のドキュメンタリー、ロウ・イエの新作、ルーマニアの伝説的テニス・プレイヤー、イリ・ナスターゼのドキュメンタリー。

「ある視点」部門は、女優セリーヌ・サレットの初監督作でニキ・ド・サンファルを描いたフィクションと、ラトビアのアニメーション「Flow」が加わった他、「Sparrows」でサン・セバスチャン国際映画祭の最高賞に輝いたルナー・ルナーソンの新作がオープニングを飾る。

宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」
宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」

日本映画は追加が叶わなかったものの、今年はスタジオ・ジブリに栄誉パルムドール賞が授与される。さらに公式ポスターには、1991年にアウト・オブ・コンペティションで披露された、黒澤明監督が長崎で被爆した老女を主人公にした「八月の狂詩曲」を引用したデザインが採用された。この選択の理由を映画祭事務局は、「『姿三四郎』『羅生門』『七人の侍』『どですかでん』『デルス・ウザーラ』の監督が遺作の前に制作した本作は、団結すること、すべてのものの調和を求めることの大切さを思い出させてくれます。映画館を投影したこのポスターは、純真さとワクワクする気持ちをもって第七芸術を讃えます。映画はすべての人に声を与えるゆえに、人々を解放することを可能にし、傷を覚えているゆえに忘却と戦い、危険を明らかにするがゆえに団結を乞う。トラウマを和らげるゆえに生きることを修復する手助けとなるのです」と記している。

ちなみに「八月の狂詩曲」に出演したリチャード・ギアは、今回コンペティションで披露されるポール・シュレイダーの「Oh Canada」で、カンヌを訪れる予定とか。

また今年新設されたVR作品部門のラインナップも発表になり、8本がコンペティションで、6本がアウト・オブ・コンペティションで披露されるが、後者には仏、英、台湾、リュクサンブール、韓国合作により河瀬直美を捉えたクレモン・ドゥヌーの「Missing Pictures: Naomi Kawase」がある。

「ナミビアの砂漠」
「ナミビアの砂漠」

一方、併設部門の「監督週間」には、日本から山中瑶子監督の「ナミビアの砂漠」と、久野遥子山下敦弘監督の日仏合作アニメーション「化け猫あんずちゃん」、山村浩二監督の短編「とても短い」が入選した。さらにポスターは、北野武のイラストを採用。北野監督のファンである同部門のジュリアン・レジ・ディレクターのアイディアにより実現したものだそう。茄子のキャラクターをデザインしたお茶目なイラストは、その鮮やかな配色とともに目を引く。カンヌではこの茄子デザインのTシャツやエコバッグ、ピン・プローチを販売するという。

「化け猫あんずちゃん」
「化け猫あんずちゃん」

VR部門が増えた今年は、例年以上に盛り沢山という印象だが、全体的に、いまの情勢不安を色濃く反映し、自由とヒューマニズムを訴えるものになりそうだ。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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