歩いても 歩いても : 新作映画評論

掲載作品数22699

映画のことなら eiga.com エイガ・ドット・コム

新作映画評論

歩いても 歩いても 歩いても 歩いても 6月28日よりシネカノン有楽町1丁目、アミューズCQN、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

家族の一日を描いて女の一生を語る、奥の深い映画

画像1(C) 2008「歩いても 歩いても」製作委員会

チェーホフは、「おはよう、今日も天気がいいわ」というセリフで愛を告白すると、何かの本で読んだことがある。優れた戯曲は、何気ない日常会話でその人間の過去や性格、現在の心境までも表現してしまうということなのだろうが、この映画もまさしくその範疇に入る作品だ。何か事件が起こるわけでも、ドラマティックな展開になるわけでもない。初老の両親の家に、息子と娘がそれぞれの家族を連れて里帰りする。その夏の一日を描いただけなのに、セリフの隙間からこの家族が抱えてきた葛藤や感情のもつれがすべて浮かび上がってくる。

目で見せるのは今日一日のディテールだが、そのディテールの積み重ねが指し示すのは、目に見えない存在、15年前に海で溺れた少年を助けて死んだ長男なのだ。跡取りを失った父親の失意、未だに兄へのコンプレックスを克服できない弟。そして、息子の死の痛手が辛辣な言動になって出てしまう母親。不在の存在がこの家族の葛藤の因になっていることが顕わになっていく経緯は、周到に仕組まれた推理ドラマを見るよう。是枝監督の人間観察眼に参った。毒のある言葉をにこやかに口にする母親(樹木希林が好演)を見ていると、彼女は夫に愛されない屈辱を呑み込んで生きてきたのだと思わずにはいられない。家族の一日を描いて女の一生を語る。奥の深い映画だ。

森山京子

ブックマーク: この記事をYahoo!ブックマークに登録する この記事をはてなブックマークに追加する この記事をlivedoorクリップに登録する この記事をBuzzurlにブックマークする この記事をnewsingにピックアップする

ABOUT THE MOVIE

  • 歩いても 歩いても 画像2
  • 歩いても 歩いても
  • 「誰も知らない」「幻の光」の是枝裕和監督が、年老いた両親の元に久々に集った家族の情景を静かなタッチで切り取り、人生の喜びと悲しみを浮かび上がらせたホームドラマ。ある夏の日、元開業医の横山恭平とその妻とし子が2人きりで暮らす家に、次男の良多と長女のちなみがそれぞれの家族を連れてやって来る。何気ない団欒のときを過ごす横山一家だったが、この日は15年前に亡くなった長男・順平の命日だった……。
  • 監督・脚本・原作:
    是枝裕和
    製作:
    川城和実、重延浩、久松猛朗、李鳳宇
    撮影:
    山崎裕
    音楽:
    ゴンチチ
    出演:
    阿部寛、夏川結衣、YOU、高橋和也、田中祥平、野本ほたる、林凌雅、寺島進、加藤治子、樹木希林、原田芳雄
    2008年日本映画/1時間44分
    配給:
    シネカノン
  • 6月28日よりシネカノン有楽町1丁目、アミューズCQN、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
  • オフィシャルサイト

(C)2008「歩いても 歩いても」製作委員会

歩いても 歩いても

  1. 作品ページ
  2. 映画レビュー
  3. 注目特集
  4. 映画評論
  5. 動画・予告編
  6. フォトギャラリー
  7. 価格.comで探す
  8. けいじばん
  9. 映画館検索

- PR -

ガイド

新作映画評 人気映画評論家による最新作批評のコーナー。近日公開または公開中の最新作の中から編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介。更新は、毎週火曜日。

読み込み中...
© eiga.com inc. All rights reserved.