奥田瑛二監督、新作青春映画「風の外側」で夢の大切さを説く

2007年12月28日 12:00


映画の神様は二女サクラにも 微笑んだ、と語った
映画の神様は二女サクラにも 微笑んだ、と語った

[映画.com ニュース] 前作「長い散歩」でモントリオール国際映画祭グランプリを獲得した奥田瑛二監督が、“オリジナル脚本”で挑む待望の新作「風の外側」が12月22日に東京でも封切られた。山口県下関を舞台にした同作は、オペラ歌手になるのを夢見る女子高生(監督の二女、安藤サクラ)と夢を持てないチンピラ(佐々木崇雄)を主人公に、同じ在日3世ながら“勝ち組”と“負け組”に隔てられた、現代風「ロミオとジュリエット」風の悲恋が展開する青春ラブストーリーだ。奥田監督が同作に込めた想いを語った。

まずはストーリーラインを考案した経緯から。「オペラ歌手を夢見る女学生を主人公にしたのは、藤原義江(テノール)というオペラ歌手が下関出身だったから。それに海峡(関門海峡)に流れる風を感じた時に“合唱だ。青春にはセーラー服で合唱団だ(笑)”と思ってね。さらに下関は在日の人が多いから、“勝ち組”“負け組”があって、在日の方が住むコミュニティが残っているんですよ。下関は在日の“匂い”が強烈ですから」

在日を題材にしたのは、彼らの方が日本人より強い生き方ができるからだとも説く。「この映画には状況を説明するセリフは一切ないんですよ。おばあちゃんの顔を見れば、1世の苦労が分かる。2世を演じた夏木マリさんや綾戸智恵さんの顔を見れば、苦闘の歴史が分かる。主人公の少女と青年の3世を見れば、将来にどう生きていかなければならないか分かる。3世になって差別は少なくなってきました。それはいいことだけど、日本人ですらアイデンティティがなくなっているんで、他国の血が混じっているからこそ“強く生きられる”若者らを題材にしたんですね」

劇中では再三“夢を持つこと”について言及するステキなセリフが登場する。「今回は“夢”がテーマだった。自分も夢をエネルギーとして俳優になる夢をつかんだ。誰しもそんな風に夢を持っているのに、昨今は夢すら語ることもしない。夢って湧いてくるもんじゃない。見たり感じたりした経験から“これだ!”と幻のように出てくる。その幻が夢だと思うんだけど、現実感の中で生きていると、夢など追えないわけですよね。それは情緒や人を愛する気持ちに影響してくる」

脚本を書き上げた後、20歳の東京・渋谷区の歯科医の娘がバラバラ死体になって発見され、兄が逮捕された殺人事件の顛末を知って心を痛めると同時に、その意を強くしたという。「“また、夢かよ”って思いましたよ。『長い散歩』の時も幼児虐待をテーマにしたら秋田で幼児虐待の事件が起こった。今回も夢をテーマにしたら、そんな殺伐とした事件ばかり。岡山の方では少女が警官の父親を斧でぶった斬った事件もあったね」

奥田監督は題材を見つけてオリジナル脚本で挑む重要性をこう説明する。「昨今の日本映画はマンガの原作が多い。マンガに映画人がこぞって手を差しのべる安直さがイヤだね。オリジナル脚本を書くには七転八倒しなければならないけど、イマジネーションが磨かれる」。それは苦しい作業だが、楽しいことの方が多いそうだ。「脚本の第1稿は東京で地図も見ないで考えたものだったんですが、下関に行ってみると、僕が思い描いた通りだった。“坂道を登ると山の上にミッションスクールがあって、紺色の制服でなければいけない”なんて考えていたら、丘の上に実際、梅光女学院という女学校があった。“映画の神様”って、いるもんだなぁと思いました(笑)」

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