コラム:大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏 - 第3回

2012年5月22日更新

大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏
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この数カ月、どうにもしっくりこない映画界であった。映画界、つまるところ、その内実を作り上げる映画興行が、しっくりこないという意味であるが、特に洋画の厳しさといったらない。この1月から3月までの成績を見れば、それは一目瞭然であろう。邦画、洋画の配給会社13社の累計興収が383億3820万7000円。これは、前年同期比で102%。このうち、米メジャー系5社の累計が130億7000万円で、これは何と前年同期の86.9%であった。

このGW興行も、作品別の興収上位3本は、5月6日に22億円を突破し、40億円超えも視野に入った「テルマエ・ロマエ」、30億円超の「名探偵コナン 11人目のストライカー」、20億円近い「僕等がいた 後篇」の邦画(すべて東宝配給)が占める(いずれも最終興収、推定)。洋画はといえば、「バトルシップ」が15億円前後となるほかは、10億円に届かない作品ばかりであった。

すでに言い古されてはいるが、洋画はとめどない低迷期に入ってきた。これは私自身、様々なメディアで語り、その意として、洋画の“復活”なくして日本の映画界=映画興行の盛り上がりはありえないということを、繰り返し指摘している。邦画だけで洋画の穴埋めなどできるはずもなく、事実、昨年の大幅な興収減は、洋画の低迷が大きな理由だった。邦画は、それを補うことなどできはしなかったのである。そのような状況が、今年の前半も続いている。

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ドラゴン・タトゥーの女
ドラゴン・タトゥーの女

こうした推移を見ながら、私は今年の2月に公開された「ドラゴン・タトゥーの女」のことを改めて思い出す。監督のバリュー、中身のインパクトの高さなどから、興収20億円突破の期待がもたれたが、結果的に15億円にさえ届かず、12億円前後で止まってしまった。私は、この予想を下回った数字の推移のなかに、今の洋画興行の象徴的な形が反映されている気がしてならなかった。

本作は、かなり早い段階から、各映画館で予告編が上映されていた。よく言われるように、予告編は、映画に関心をもたせるための大きなツールの一つだ。当然、それを熟知している配給会社は、予告編上映に力を入れ、その効果に多大な期待を寄せる。「ドラゴン・タトゥーの女」の予告編の出来具合が、何とも素晴らしかった。レッド・ツェッぺリンの往年の名曲をバックに、犯罪を喚起させるスタイリッシュな映像が、見る人の脳裏に怒濤のように押し寄せてくる。それは単純に、“格好良い“映像と言ってよかった。

ただ、これにインスパイアされる人たちは、実はそれほど多くなかったのではないか。若者が極端に少なかった興行結果を見て、私はそう思わざるをえなかった。人々の気持を高揚させて止まない映像と音楽のミクスチュア。かつてなら、洋画ファンでなくても、この“血沸き肉踊る“感覚は多くの人たちに届いたことだろう。しかし今や、この効果のほどが、非常に曖昧なものになってしまった。この映画というのか、映像の“価値”を、生来的に見知っている人たち(ある程度の年配者)と、そうではない人たち(若者)に、大きく分かれてしまったと言ったらいいだろうか。

要するに、予告編が醸す斬新な映像を格好良さと捉え、それが人々の映画を見に行く引き金になる時代は去ったのである。とともに、そこから喚起し得るだろう映画の独特な骨格も、強く響かなくなった。こうした諸々を印象づけたのが、「ドラゴン・タトゥーの女」の予告編だったのだはないかと、私は思っている。もちろん、ちゃんとしたデータがあるわけではない。若い観客が少なく、年配者中心ながら膨らまない興行結果を見て、私はそうした判断を下さざるをえなかったのである。

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筆者紹介

大高宏雄のコラム

大高宏雄(映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員)。
1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。著書は「興行価値―商品としての映画論」(鹿砦社)、「仁義なき映画列伝」(鹿砦社)、「映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年」(愛育社)など多数。

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