コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第14回

2015年12月22日更新

清水節のメディア・シンクタンク

第14回:ヒロイン神話<レイ三部作>の幕開け!「スター・ウォーズ フォースの覚醒」を読み解く!!

スター・ウォーズ」サーガ最新作ともなれば、やはり異様なトランス状態で迎えてしまうのはやむを得ない。オープニング2日間で成田・大阪・東京と劇場を変え、計4回鑑賞(IMAX3D字幕・IMAX次世代レーザー3D字幕・2D字幕・2D吹替)。各シーン各セリフを脳裏に刻み込んできた。それにしても、ポップカルチャーのお祭りは、いつしか映画界の命運とタイアップ企業、そしてメディアを巻き込んだ、市場経済にとっての一大イベントにまで発展してしまった。世界各国のオープニング興収をみれば、今回その役割を十二分に果たす結果となっている。3年前に40億5千万ドルでルーカスフィルムを買収したディズニーにとって、このIP(知的財産)は決して高い買い物ではなかったことが証明されつつある。内容的にも、明らかにエピソード1公開時に味わった失望とは大きく異なり、サーガ第7作「フォースの覚醒」は、ファンが期待していた“スター・ウォーズ映画”に欠かせない要素で充ち満ちている。それでいて、新時代の息吹を吹き込む挑戦もなされている。決してパーフェクトとは言わないが、新たなる三部作を始めるにあたり、J.J.エイブラムスはその役割をしっかりと成し遂げたと言っていい。ここでは核心に触れるネタバレを避けながらも、論ずる上で必要な情報は開示するため、本作未見の読者は、読み進むか否か各自判断してほしい。では、画面から読み取れるものを読解・批評・推察していこう。

■エピソード4の「軽快さ」×エピソード5の「彫り込み」

まず、明快なオープニングロールの1行目に感銘を受けた。意外性もはらんでいる。その後に続く状況説明や登場人物たちの命題も、新三部作に比して実にシンプル。エピソード5~6の書き手ローレンス・カスダンを中心とする脚本は、もはや伝説的な人物となったルーク・スカイウォーカーの存在を核に、真っ直ぐに突き進む。ある重要なものの争奪をめぐる幕開けは、「インディ・ジョーンズ」シリーズさながらのタッチだ。エイブラムスは、スピルバーグの躍動的なキャメラワークで物語へいざなう。ビッグバジェット映画にありがちな壮大さを狙わず、エピソード4を魅力的なものにしていた、いい意味でのB級アクション映画としての軽快さと、エピソード5を傑作と言わしめた人物の彫り込みやサプライズを兼ね備えたエンターテインメントを志向している。

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エピソード6の勝利から約30年。しかし平和は一向に訪れていないという背景と、ダークサイドの脅威は「シス」→「帝国」→「ファースト・オーダー」と形を変え存在し続けているという設定は、現実社会の映し鏡としても十分にリアリティを感じさせる。それは、愛すべき旧三部作に緊密でありながら、未知の世界を覗き見る好奇心を刺激する。しかも新三部作のようにCGで精緻に描き込まれた画ではなく、砂漠や森でロケされ、映画がまだ共同幻想だった頃の夢やぬくもりを思い起こさせる。ディズニー傘下となり、プロデューサーのキャスリーン・ケネディ率いるマーケティングの合言葉が、「ファンのためのスター・ウォーズ」であったことは間違いない。

■テレビシリーズ「第1話」のような手捌きで描く「旅立ち」

ジョージ・ルーカスが起こしたデジタル映像革命に抗うかのように、本作はIMAXキャメラも使用し、65mmフィルムと35 mmフィルムで撮影されている。セットや着ぐるみで撮影可能なものには後処理を加えておらず、CGキャラクターとのバランス感覚も絶妙だ。R2-D2の後任の役割を担う、転がり回る新ドロイドBB-8も実寸の物体であり、俳優たちの生身のアクションも堪能させてくれる。とりわけ、御年73歳のハリソン・フォード、64歳のマーク・ハミル、59歳のキャリー・フィッシャーは、ただそこに存在しているだけで多くを物語る。フォードが扮するハン・ソロは年齢を感じさせない動きと表情で魅了する。ジョン・ウェインをヒーロー視した「駅馬車」世代が、「ラスト・シューティスト」でガンマンを演じた彼を観る眼差しを初めて知る思いがした。30年以上という俳優の実時間の経過を、1つのシリーズに取り込むという行為は、映画史上初めてではないか。

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エイブラムスは、ファンのツボを押さえたネタを全編に散りばめている。そしてエピソード4やエピソード1のプロットに沿ってパズルのピースをはめ込むように、スター・ウォーズらしさを踏襲しながら物語を運ぶ。謎を仕込み伏線を張る。ルーカス演出ではぎこちなかったユーモアのセンスも滑らない。演出的に最も力点が置かれているのは、新しいキャラクターたちを輝かせることだ。ただ、ヒロインであるレイ以外の新キャラクター、フィン、カイロ・レン、ポー・ダメロンらも同等に魅力的に描き込まれたせいもあり、2時間15分という尺の中に、情報を詰め込みすぎたきらいがある。それによって、レイの「旅立ち」を描くはずの神話の法則が崩れている。三部作の「序」というよりも、3話完結テレビ・ミニシリーズの「第1話」という趣も感じさせるのだ。謎・伏線・キャラクタードラマ。ケネディは、そうしたテレビシリーズ的な手捌きを取り込むことこそ、現代の観客に訴求する要素だと判断し、エイブラムスを起用したとも解釈できる。テレビドラマ出身の仕掛け人エイブラムスの本領発揮ではあるのだが、大スクリーンで体験する神話とは別のものになった印象も生まれた。

>>次のページ:新キャラたちの「仮面」こそエイブラムスのイコン

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筆者紹介

清水節のコラム

清水節(しみず・たかし)。1962年東京都生まれ。編集者・映画評論家・映画ジャーナリスト・クリエイティブディレクター。日藝映画学科中退後、映像制作会社や編プロ等を経て編集・文筆業。映画誌「PREMIERE」やSF映画誌「STARLOG」等で編集執筆。海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」日本上陸を働きかけ、DVD企画制作。著書に「いつかギラギラする日/角川春樹の映画革命」、新潮新書「スター・ウォーズ学」(共著) 。WOWOWのノンフィクション番組「撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画制作でギャラクシー賞、民放連賞最優秀賞、国際エミー賞受賞。

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