劇場公開日 2024年3月29日

「科学者の苦悩を描く映画」オッペンハイマー 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0科学者の苦悩を描く映画

2024年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

原爆の成果を肯定的に描いているわけではない。数奇な巡り合わせで原爆を開発することになった科学者の苦悩を主観的に描こうと試みた作品だ。その意味で原爆についての映画かというと、微妙に違う。あくまで原爆を作った男についての映画だ。鑑賞する時にはそこを間違えない方がいい。
とはいえ、被爆国の日本でこの映画を見るというのは、どういうことかを考えざるをえない。被害が直接描かれないという批判は正当にあり得る。加害者の苦悩と被害者の被害とどちらが大切なのかということは問えるだろう。
ただ、映画を観るというのは、他者を知る良い機会にできる。アメリカで原爆開発をめぐってどんな議論があり、どんなプロセスを経て開発され、開発者は何を葛藤し、戦後どのような目にあったのかを知る機会は手放すべきではない。
ただ、個人的には原爆の被害がどのようなものかより突っ込んだ描写をした方が、オッペンハイマーの苦悩をより深く理解できる作品になったのではないかという気がする。スライドで被害報告を聞くオッペンハイマーの描写があったが、そこでスライドの内容を見せない選択でよかったのかどうか。
日本人なら、あのスライドの内容を想像可能だ。他の国の人々はどうなんだろうか。

杉本穂高