市子

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劇場公開日:

市子

解説

「僕たちは変わらない朝を迎える」「名前」などの戸田彬弘監督が、自身の主宰する劇団チーズtheaterの旗揚げ公演として上演した舞台「川辺市子のために」を、杉咲花を主演に迎えて映画化した人間ドラマ。

川辺市子は3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則からプロポーズを受けるが、その翌日にこつ然と姿を消してしまう。途方に暮れる長谷川の前に、市子を捜しているという刑事・後藤が現れ、彼女について信じがたい話を告げる。市子の行方を追う長谷川は、昔の友人や幼なじみ、高校時代の同級生など彼女と関わりのあった人々から話を聞くうちに、かつて市子が違う名前を名乗っていたことを知る。やがて長谷川は部屋の中で1枚の写真を発見し、その裏に書かれていた住所を訪れるが……。

過酷な境遇に翻弄されて生きてきた市子を杉咲が熱演し、彼女の行方を追う恋人・長谷川を「街の上で」「愛にイナズマ」の若葉竜也が演じる。

2023年製作/126分/G/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2023年12月8日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第47回 日本アカデミー賞(2024年)

ノミネート

最優秀主演女優賞 杉咲花
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映画レビュー

3.5私を「私」と証明する方法は

2023年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

私はいかにして「私」となれるのか、と問われているような鑑賞体験だった。付き合っている男性から結婚を切り出され、結婚届けの書類を差し出されるカットがある。その書類には当然、名前を記入する欄がある。そのカットが写った瞬間は何も気にならないが、主人公の女性が実は偽名であり、戸籍のない存在であることがわかってくると、あのカットの重みが後半、変わってくる。公的な書類の名前記入欄に書ける名前がないということの苦しさが後半、どんどん立ち上ってくる。
自分という存在はいかに保証されるのか。社会のシステムとしての戸籍になければ存在しないことになるのか。しかし、戸籍こそが自分だなんと言う人はいないはずだ。もっと何か、実存の深い部分にある何かが「自分」じゃないのか。あるいは、関係する他者との距離や差異が「自分」を規定するのだろうか。私はいかにして「私」であることを証明できるのか。観客自身も存在を揺さぶられる作品だ。

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杉本穂高

4.0重荷を軽くしてくれた味方の男たち

2024年5月19日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

難しい

最初の海の映像は何なのか。
たぶんそれは、全てを無にした旧約聖書の『ノアの大洪水』。

足をアップするのは、確かに生きているということでしょう。幽霊には足がないから。

市子の謎の行動の理由を知りたいと思えば、ちょうど誰かの直筆のような名前がすみっコに表示されて、その名前の人が主人公のエピソードが始まり、ある程度好奇心が満たされる。そして更に知りたいと思う事が発生すると、また別の人の直筆サインが表示されてエピソード。その繰り返しパターンが心地良い。

浜辺で母親から月子のことを聞いた義則(若葉竜也)が号泣した後、安定のパターンが崩壊する。直筆サイン無しで始まるヤキソバ購入シーンが、市子の回想とは知らず義則と市子が再開したのかと思った。初めての市子のナレーション付きエピソードは、誰かに宛てた手紙を読んでいるかのようだ。
義則は市子の母親の心を軽くした。
義則は市子を探さない、市子のために。

ラジオやテレビのニュースは市子が関係している内容のものばかりだった。
劇中の市子は、魔女の宅急便のキキのような服、独特な髪型と少し飛び出した片耳が特徴的で、戸籍がなく殺人しながら生きている控えめで優しいキャラクター。このアイデンティティは『リング』の貞子に並ぶほど世界に通用するレベル。

市子として生きたその先にハッピーエンドがあった。しかし限界を知った。
♪戸籍なんてなーいさ、戸籍なんてうーそさ…
港でヒーローを女二人でコロしてクルマに乗せて保険証受渡し後アクセル全開かな。

今作は、自分の人生に置き換えて前向きに考えることができる。
最初のシーンに戻ったのはリセットを意味する。
雨で何もかも流れたかのように。

市子は新しい自分を手に入れた。
今度は上手くいくかもしれない。
エンドクレジットは無音。そこにあるのは市子の鼻唄の余韻だけ。

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Don-chan(Daisuke.Y)

4.5不幸とは

2024年5月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

不幸を全て背負って生きていく、それでも生きる。この映画のように、人生はひとつひとつのピースでできており、その時その時が本当の自分なのである。それでも生きる生き残るそんな映画でした。

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まさ

3.5杉咲花がすごい。あとは好み。

2024年5月13日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

知的

なんとは無しにNetflixで見はじめたため、途中洗濯や掃除などそこまで没入できない環境。
そんな環境で見る映画じゃないですね笑

僕は若い頃バンドを齧っていて、今も細々と続けてるんですが、特に20代の頃、東京のいわゆる遊び場で会う友達の関係性ってとても独特でした。(マジメに音楽やってる方のグループだったと思います、念の為笑)
大体が下の名前しか知らなくて、身の上話より先に音楽の話やバカ話をするので、来し方行く末も何も知らない。でも、例えば、その人の家には何度も泊まったことがある。例えば、飲んで朝まで語り合った。例えば、親よりも一緒にいる関係。
なんですけど、突然消えちゃったりするんですよ、片方が笑 なんか嫌になった、とか言って。しばらくすると帰ってくるケースもあれば、そうでないケースもあります。
ガラケー時代ですらそうでしたから、たぶん今のSNS時代なんかは尚更でしょう。友達と自分を繋いでいるのはとてもか細い線でしかない。

そんなこんなで、僕とずっと仲が良かった友人は、12年前に突然いなくなってしまい、いまだに帰ってきません。

今接している人が自分に見せている顔はほんの一部でしかなくて、思いもよらないこの人が裏では存在する。
特に都会で生活していると、一度は思ったことがある感覚なんじゃないでしょうか?

気がついて見ると、実はこの人のこと何も知らないなぁ。

そんな彼女が、婚約者になった次の日に行方をくらますのがこのお話のスタート。明らかに、いい話にはならなさそうな鬱屈とした雰囲気で話は進みます。

社会的であり猟奇的であろうテーマなのですが、万引き家族のような情緒的描写ではなく、序盤はあくまでミステリー的な謎解きロジックや仕掛けに重きが置かれています。

この描写、ぶっ飛んだ設定の割には真面目で、言語的で、やや説明的にも思えました。好みとしては、もう少し情緒に寄っていてくれた方が見やすい。どうや〜、コイツらヤバい奴らやろ〜、ってねっちょり〜とやってくれた方が好きでした。もう少しテンポが悪くてもよかった笑

ただ、とにかもかくにも杉咲花。常時目が座っている高校の市子は、このルックス(ストレートに言えばめちゃめちゃな美人笑)にして、明らかに付き合うと何かありそう。というか幸せを持ってなさそう。そんな女に惚れ抜いてしまい共犯者にまでなった北くんの未来が暗黒なのは誰もが予想できます。 北くんがやることでは一切笑わないのに、花火やケーキ屋の事では無邪気に笑う。忘れてくれてえーよ、と、恐ろしく冷たい目で北くんを睨む。頼むから私のことを忘れてくれと涙ながらに訴える。男心は辛いでしょうね笑

その一方で、真裏側の市子に惚れ抜いた長谷川という存在もいます。
2人と、さらにもう2人の人間を手にかけた目の座った市子と、長谷川の前で無邪気に笑ったり泣いたりしていた市子は、当然どちらも実在します。
紛れもなく市子は、表の市子としての生を求めていたと思いますが、実在しない「市子」はそれを物理的に叶えられない。そして、それが長谷川に明らかになった時、裏の市子の存在も明るみに出る。婚姻届とは、幸せな時間の悲しい時間切れを意味しました。

市子の生が単純で複雑なのは、たとえそうであっても幸せを求めて生きていく、と言う選択を選び続けると言うことだと思います。罪滅ぼし、ひっそりと暮らす、あるいは自●…そんな選択肢を市子は選びません。最後の最後は「知ったことか」そんな「生きしぶとさ」を持っています。

そんな市子の極東から極西への振れ幅を、頭からつま先まですべて演じ切るんだから、杉咲花はすごい。月子の生命維持装置を外す市子は震え上がるほど怖いし、高校の彼氏とベロチューする市子はどエロいし、長谷川に「ただいま」と言う市子は死ぬほど可愛い。そして、結婚しようと言われて泣く市子は、もらい泣きしそうなくらいに切ない。

もうどこまで行ってしまうんだってほどの凄さでした。アンメット見てませんけどこれから合流します。簡単ですが、ではまた!

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