コラム:若林ゆり 舞台.com - 第115回

2023年6月30日更新

若林ゆり 舞台.com

第115回:革命的ミュージカル映画「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン監督が、日本でさらに進化した舞台版を大絶賛!

ミュージカル映画論を語ったバズ・ラーマン監督
ミュージカル映画論を語ったバズ・ラーマン監督

絢爛豪華で艶っぽく、エネルギッシュで退廃的でロマンティック、そしてはかなくもファンタジック。「ムーラン・ルージュ」(2001)はバズ・ラーマン監督が独特の美学を大いに発揮し、ミュージカル映画に新たな革命をもたらした一大エンタテインメントだ。ナイトクラブのショースターで高級娼婦でもあるサティーンと、アメリカ生まれの作曲家の卵、クリスチャンがパリで繰り広げる悲恋物語。クラシックや古典ミュージカルから最新ヒットポップスまで、既存曲をリミックスしてミュージカルナンバーとして見事に構築。物語る音楽をてんこ盛りにしつつ、あっと驚く映像演出で彩られたラブストーリーは観客の心を鷲づかみにして、いまなお色あせない。この映画がきらびやかなマッシュアップミュージカルとして装いも新たに舞台へとよみがえり、ブロードウェイで旋風を巻き起こしたのは2019年。待望久しかった「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」は映画に負けない熱狂を呼び、トニー賞でも作品賞ほか10部門を受賞。そして世界上演7カ国目として、この6月下旬、ついに日本で幕を開けた!

「舞台.com」では2回にわたってこのミュージカルを特集。第1弾として、この開幕を誰よりも楽しみにしていた人のひとり、映画版の監督・製作・脚本を務めたバズ・ラーマンのインタビューをお届けする。

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今回、このミュージカルのプレビュー開幕に合わせて来日し、プレビュー公演の初日を観劇したラーマン。興奮冷めやらぬ彼の目に、日本人キャストによる上演はどう映ったのだろう。

「とてもエキサイティングだったよ! 日本語で上演されたものなので言葉は違っていたけれど、僕はすごくよく理解できたし非常に心を動かされた。翻訳と訳詞もうまくいっていたと思う。ユーモアについても、たとえばジドラー(※ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の経営者)が面白さを発揮して観客を沸かせているのを感じることができたよ。僕は世界中でこのショーが上演されるのを見てきたんだ。でも日本のみなさんほど強烈にこのショーに対する情熱と熱意、コミットメントを感じたことはなかったと思う。それぞれの国で、その国のテイストや文化が影響するものだけれど、日本版は感情の部分をいちばん深く感じることができるものだった。悲劇性がより強く感じられて、本当に感動的な仕上がりだったね。最後の悲劇的なシーンについては、これまで見たどのバージョンにも増して、いちばん感動したと言えるくらいだ。日本人キャストのみなさんはとても素晴らしい演技を見せてくれたと思うし、感謝しているよ」

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オリジナルの映画版「ムーラン・ルージュ」は、ラーマン監督にとって非常に思い入れの強い作品だ。ありとあらゆるミュージカルの要素が詰め込まれ、いままで見たことがないような映像表現に満ちあふれた、ラーマンにしかつくれない映画。ラーマンがこれをつくる原動力となったのは、「ミュージカル映画への愛」だったという。

「当時、僕はミュージカル映画というものを再発明したいという、強い意欲をもっていたんだ。大好きなジャンルなのに、すっかり廃れてもう過去のものになってしまっていたからね。とにかくどういう設定にするか、どういうストーリーにするかと考えたとき、ありとあらゆるミュージカルを研究した。僕はどの時代のミュージカルも大好きなんだ。だから各時代、各スタイルのミュージカルに対して、すべてにオマージュを入れていった。僕たちが知っているポピュラー音楽の多くは、古いミュージカルを基につくられている。それで古いミュージカルには、誰もが耳になじみのあるような曲がたくさんあるから、そういう曲を使いたかった。なおかつ、現代的なミュージカルをもう一度つくりたかったんだ。ノスタルジックで郷愁を誘うけど、それはすごく新鮮でなくてはならないし、革新的に見えるようにしたかった」

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耳なじみのある古い曲たちと、現代のポピュラー音楽が短いフレーズ単位でつなぎ合わされる「マッシュアップ」という手法でリミックスされた音楽は、ストーリーや登場人物の感情にピタリとはまってミュージカルの醍醐味を増幅させた。こんなふうに音楽を「ピタリと」当てはめていく作業は、どんなものだったのか。

「それは非常に興味深いプロセスだったよ。僕が好きな音楽を使うというより、物語にぴったりフィットする曲、物語を伝え、感情を語るのに最もふさわしい曲はどれなのかということを検証しながら探していったんだ。つまり、僕らチームでシーンごとに、劇的に効果を発揮しそうな曲を思いつく限り書き出していって、どういう効果を生み出すかを実験、実証していった。歌はすべて、ドラマの瞬間を雄弁に語るものでければいけないからね。だって音楽が感情を高め、より感情的なドラマを伝える最強の味方になってくれるということこそが、ミュージカルの魅力だと思うから。今回のミュージカル版で『マッシュアップ』を再構築したアレックス・ティンバースとジャスティン・レビーンのチームは、ミュージカル音楽をさらなる高みへと押し上げたと思うよ」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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