劇場公開日 2007年2月3日

墨攻 : インタビュー

2007年2月1日更新

戦乱の世に“非攻”を掲げ、10万人の敵を相手に陥落寸前の城を1人で守る墨家の姿を描いた「墨攻」。原作漫画は、92~96年にかけて小学館のビッグコミックに連載され、海外でも熱烈なファンを獲得した。この度、中国、香港、韓国、日本とアジアの総力を結集し、歴史アクション大作として映画化を試みたジェイコブ・チャン監督に話を聞いた。(聞き手:編集部)

ジェイコブ・チャン監督インタビュー
「アジアの視点から、ヒーローのいない反戦映画を撮ろうと思ったのです」

ジェイコブ・チャン監督
ジェイコブ・チャン監督

─―原作漫画を読んだのは10年前とのことですが、なぜ映画化を決意されたのですか?

「ストーリーの娯楽性と完成度の高さに惹かれました。古代中国の墨家を描いていますが、若い読者たちを夢中にさせたのは、戦争の描かれ方が面白かったからだと思います。“勝つために暴力は使わない”という点が斬新だし、戦争の残忍さを浮き彫りにしていました。私はこの作品が反戦映画になると思い、夢として温めてきたのですが、私にはあまりにも大きな夢でした。今までこれほど大規模な映画を撮ったことはなかったし、ハリウッドにはすでにたくさんの反戦映画がありますから。私はアジア各国と手を組むことで市場を広げ、投資を集めようと考えました。そして、ハリウッドの場合、ヒーローを描くことで反戦を描きますが、アジア映画で同じことをしてもつまらない。『墨攻』でヒーローは描かない!と決心したのです」

――表舞台に上がることのない孤独な墨家・革離を演じたアンディ・ラウと、敵の将軍アン・ソンギという2人の役者をどうご覧になりましたか?

「私とアンディは同級生なんです。彼は映画業界の第一線で20年以上活躍していますが、いつも元気で、冗談が好きで、ますます仕事に没頭しています。これまでほとんどスキャンダルを起こさず、飲酒もせず、私生活の部分も含めて映画に心を捧げています。それが演技にも表れていますし、私は彼をとても尊敬しています。

香港のアンディ・ラウ(右)、韓国のアン・ソンギ(左)と 国境を越えた共演が実現
香港のアンディ・ラウ(右)、韓国のアン・ソンギ(左)と 国境を越えた共演が実現

「アン・ソンギは、ご存知のように韓国の国民的俳優です。彼は常に謙虚で、食事や滞在先も私たちに合わせてくれました。しかし彼が唯一、譲らなかったのが台詞の変更です。母国語が違いますので、たびたび台詞が変わると準備しづらくなるんですね。でも私はよく変えるんですよ(笑)。だからできるだけ早めに、詳しく伝えるようにしました。彼もきちんと対応してくれました」

――作中、死体を運ぶシーンが多々ありましたが、その理由は?

「ハリウッド映画の傾向として例えば性的暴力を描く場合、いかに女性が虐待されるのかをリアルに描くものが多いですね。人間は刺激的なものに興味を動かされるので、どのように人を殺すのか、暴力が振るわれるのかを見たい。でも私は反戦をテーマに同じことをすると、作品が商業的になってしまうと思いました。だから、むしろ私の映画は1つの枠だけを作って、中味は観客のみなさんに想像してもらうようにしたのです。暴行や殺しといった部分はあえて多く見せず、間接的な手法で戦争の恐ろしさを伝えることが私のやり方だと思いました」

――昨年末、本作の音楽を手がけた川井憲次さんを取材したのですが、川井さんの音楽についてどんな感想を持たれましたか?

「編集の際、映画『アレキサンダー』や『キングダム・オブ・ヘブン』『トロイ』の音楽を挿入して、これがすごく良かったんですよ。これを我々のイメージとして川井さんに渡したのですが、彼にとっては非常にやりづらい話なんですよね(笑)。“試しに音楽が入ってないものを送ってくれないか”と言われました。私たちのリクエストとして、これは中国映画ではなくアジア映画と位置づけているので、音楽も普遍性のあるユニバーサルなものがいいとお願いしました。そうして出来上がった音楽がすごいんですよ。洋楽でも中国音楽でもない、私の注文した通りの音楽でした。迫力を感じましたし、音楽で物語を語っていると思いましたね。

『墨攻』はスタッフが約600人、エキストラを含め約2万人が関わっています。完成まで10年の歳月を費やし、アジアの映画人が身分の高低なく団結して作った映画です。観客のみなさんに、その誠意を感じとっていただけると嬉しいです」

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