めぐりあう時間たち

ALLTIME BEST

劇場公開日:

解説

バージニア・ウルフの名作小説「ダロウェイ夫人」をモチーフに、異なる時代に生きる3人の女性がそれぞれ迎える運命の1日を描いた文芸ドラマ。「リトル・ダンサー」のスティーブン・ダルドリー監督がマイケル・カニンガムの同名小説を原作にメガホンをとり、ニコール・キッドマン、メリル・ストリープ、ジュリアン・ムーアが主人公の3人の女性を演じた。1923年、心の病を抱えロンドン郊外で療養生活を送る作家バージニア・ウルフは、新作「ダロウェイ夫人」の執筆を進めていた。1951年、ロサンゼルスで暮らす妊娠中の主婦ローラは、理想の妻や母親であることに疲れ果ててしまう。2001年、ニューヨークの編集者クラリッサは、余命わずかな友人の作家リチャードのためにパーティを開こうとする。キッドマンが特殊メイク姿でウルフを熱演し、2003年・第75回アカデミー賞で主演女優賞を受賞。第53回ベルリン国際映画祭では主演3人が銀熊賞(女優賞)に輝いた。

2002年製作/115分/アメリカ
原題:The Hours
配給:アスミック・エース、松竹
劇場公開日:2003年5月17日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第27回 日本アカデミー賞(2004年)

ノミネート

外国作品賞  

第60回 ゴールデングローブ賞(2003年)

受賞

最優秀作品賞(ドラマ)  
最優秀主演女優賞(ドラマ) ニコール・キッドマン

ノミネート

最優秀主演女優賞(ドラマ) メリル・ストリープ
最優秀助演男優賞 エド・ハリス
最優秀監督賞 スティーブン・ダルドリー
最優秀脚本賞 デビッド・ヘア
最優秀作曲賞 フィリップ・グラス
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映画レビュー

5.0ヴァージニア・ウルフや原作へのリスペクトに溢れる死と生を対置したドラマ

2024年6月5日
PCから投稿

1 ヴァージニア・ウルフとは何者か
1882年生まれ1941年没の英国の女性文学者。「意識の流れ」のモダニズム手法により小説の在り方の変革に影響を及ぼした。
ロンドン・ブルームズベリーの自宅に、姉のヴァネッサや兄弟とともに文化人社交サークル、ブルームズベリー・グループを形成し、新しい文化・思想の発信地の役割を担う。
グループの中心は兄であるケンブリッジ学生トービーや画家の姉ヴァネッサとヴァージニアで、メンバーには「4月は最も残酷な月」で知られる詩人T.S.エリオットや、有効需要の原理で経済学に革命を起こした経済学者ケインズがいた。

私生活ではレナードと結婚したが、男性との性生活が営めず、ヴィタ・ウエストら複数の女性と恋愛関係を結び、晩年には「戦争は男性が引き起こすもので、女性が国家に影響力を持っていれば戦争はなくなる」というバカげた戦争論『3ギニー』を発表。
また、父母の死後、精神病に悩まされ、22歳、32歳の時に自殺未遂事件を起こし、最後には1941年に59歳で入水自殺する。

以上の履歴から彼女は今、「前衛芸術家、フェミニスト、レズビアン、リベラル知識人の文化的アイコン」となっている。

2 『ダロウェイ夫人』の内容
ウルフの代表作(1925)で、ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』と同じく、意識の流れを人間の現実と捉えて、英国上流階級の女性がパーティを開く一日の感覚、感情、記憶等を辿るとともに、第一次大戦で心に傷を負った男の狂気と死を並立させることにより、生への肯定的な志向と否定的志向という人間存在の振幅の大きさを描く。

当初、表題は「時間」と予定され、ウルフは「この本で私は生と死、正気と狂気を描きたい」と日記に記している。
狂気を代表するのは当初、ダロウエイ夫人本人と構想されていたが、やがて第一次大戦でシェルショック、今でいうPTSDにより精神を病んだセプティマス・ウォレン・スミスとされた。

セプティマスは「雀たちがギリシャ語でさえずっている」と妄想し、死に追い詰められていくのに対し、ダロウェイ夫人は俗物だが、「もう恐れるな、灼熱の太陽を、激しい冬の嵐を」と念じつつ、「パーティとは人生への捧げものだ」と人生を肯定する。ウルフの狙いはその並立そのものを描くことであり、いずれかを勝たせいずれかを退けるものではなかった。

3 小説『めぐりあう時間たち』について
米国の作家マイケル・カニンガムが1998年に発表。原題が「時間」というのを見てもわかるが、『ダロウェイ夫人』の「本歌取り」的作品である。つまり、ウルフの小説を換骨奪胎して、類似の設定で類似のキャラクターを登場させ、別の内容を語ろうとしている。
本作の訳者高橋和久は「1980、1990年代の小説には、文学史上の『古典』に『寄生』し、その続編もしくは前史という体裁をとった作品がずいぶんと発表され、それがポストモダン小説のひとつの潮流となっていた」といい、本作もウルフの設定、人物ばかりでなく、文体まで模倣するなどしており、その一つであると指摘する。

確かに、ダロウェイ夫人がロンドンのバッキンガム宮殿周辺を歩き回れば、本作では「ダロウェイ夫人」というニックネームの女性がニューヨークの中心街ソーホーやグリニッチ・ヴィレッジを歩き、花を買い求めると、二人ともその途中でバカのような知人(ヒュー・ウィットブレッドとウォルター・ハーディ)に出会う。以後、ウルフ作品と類似の出来事が頻出するのである。

小説はこの「ミセス・ダロウェイ」のほか、「ミセス・ウルフ」「ミセス・ブラウン」を登場させ、ミセス・ダロウェイはウルフの小説のセプティマスに代わり、精神を病んだ詩人リチャードの面倒をみるほか、何年も会っていなかった昔の友人ルイスに会う。ミセス・ウルフは史実に忠実に、使用人に威圧されながら小説『ダロウェイ夫人』を執筆する。

ただ一人、1950年前後の米国の理想的家庭の主婦ミセス・ブラウンは、小説『ダロウェイ夫人』を読んでいる心を病んだ女性だが、彼女を登場させる必然性がよくわからない。ましてや子供リッチーの意味などもわからない。

ところが本作の独創性は、エイズを病む詩人リチャードが自殺した直後、そのフルネームが「リチャード・ワージントン・ブラウン」であることをさりげなく示した途端、影の薄かったブラウン夫人とその子リッチーがいっきょに主役に浮上する点にある。

「失われた母親であり、挫折した自殺願望者であり、一切を置き去りにして立ち去った女」ミセス・ブラウンの息子リッチー=リチャードは、心を病んだ挙句、ミセス・ダロウェイに向かって「でもやっぱり時間はやってくるだろう。一時間、また一時間と。それを何とかやり過ごす。するとなんてことだ、次の時間がやってくるじゃないか。吐き気がしそうだよ」と言い残して、ビルの5階から飛び降りていく。ああ、あの子が数十年後にこうなったのかと読者は驚愕し、沈黙せざるを得ないのである。

彼の通夜に訪れたミセス・ブラウンを迎えたミセス・ダロウェイがどうしたか。
「怒りと悲しみに満ちた女性。悲哀に満ちた、目眩めく魅力に満ちた女性。死に恋した女性」を前に、彼女は夜食を用意して、「こちらへどうぞ。準備万端整いました」ともてなし、小説は終わる。ウルフ作品とは異なる「パーティ」の主催者として、人生の捧げものを提示するのだ。見事だと思う。

4 映画作品について
ヴァージニア・ウルフという作家とその代表作の本歌取りをして、素晴らしいドラマを構築した原作は、いかんせん複雑すぎる。ましてやその映画化である本作にいたっては、ヴァージニア・ウルフの伝記や『ダロウェイ夫人』、さらにカニンガムの原作を読んでいなければ、そのあらすじさえ理解できないに違いない。
映画を見ているだけでは理解できないのでは、作品として評価しようがない。普通ならそうだろう。
ただ、本作にはウルフやその作品に対するリスペクトがあり、死と生を対置したドラマがある。その志をよしとしたい。

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徒然草枕

4.0劇場公開時鑑賞。

2024年1月21日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

時代の違う三人の主人公を並行して描く話。構成からしてもう好き。かなり時代が離れるけど、どう関連づけるかねえ、ぐらいの頭で入ったら、なかなかの歯ごたえでたじろぐ。
三者三様の演技をまたじっくり味わいたくなった。

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なお

2.0難し過ぎ

2024年1月1日
PCから投稿
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プライア

4.0時間の不思議

2023年9月16日
iPhoneアプリから投稿

知的

「長い一日」ってあるものだ。何気なくすごした一日はあっさり過ぎてしまうんだけど、自分にとってとても意味のあった日、大事なことがあった日っていうのは、とても長かったって、感じる。
この映画の中にでてくる時間は、3人それぞれの「長い1日」だ。

「運命のいたずら」という言葉がある。この作品では、ウルフに「あの人を殺さなかったから代わりにあの人に死んでもらう」といわせていたが、何かがこうでなければ・・・という可能性はいくらでもある。誰かの気がちょっと変わっただけで、他の誰かの運命が大きく変わることもある。信じられない奇跡的な時のめぐりあいを経て、私たちは今自分の周りにいる人たちと一緒にいるといえるかも。

それにしても~今回は3人の女優、配置が絶妙!
ニコールは’20年代の英国、J・ムーア、フィフティーズのLA、そして現代のNYはやはりM・ストリープ。ぴったりでしたね~

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らいぴゅう
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