劇場公開日:2006年7月8日
解説
「蛇イチゴ」(03)でデビューを飾った西川美和監督の第2作。東京で写真家として気ままに暮らす猛(オダギリジョー)が、母親の一周忌で久しぶりに帰郷。猛は家業を継いだ兄の稔(香川照之)と幼なじみの智恵子とともに近くの渓谷へ行くが、智恵子が吊り橋から転落してしまう。智恵子の近くにいた稔が逮捕され裁判となるが、そこで猛は今まで見たことのない兄の姿を目の当たりにする……。
2006年製作/119分/日本
配給:シネカノン
劇場公開日:2006年7月8日
劇場公開日:2006年7月8日
「蛇イチゴ」(03)でデビューを飾った西川美和監督の第2作。東京で写真家として気ままに暮らす猛(オダギリジョー)が、母親の一周忌で久しぶりに帰郷。猛は家業を継いだ兄の稔(香川照之)と幼なじみの智恵子とともに近くの渓谷へ行くが、智恵子が吊り橋から転落してしまう。智恵子の近くにいた稔が逮捕され裁判となるが、そこで猛は今まで見たことのない兄の姿を目の当たりにする……。
2006年製作/119分/日本
配給:シネカノン
劇場公開日:2006年7月8日
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2023年11月1日少し前の作品だけに、カメラワークやシーンのカットも一世代前なのかなと感じた。
だがこの作品もまた、人の心、特に心の奥底に潜むようにある澱のような影を描き出している。
主人公のタケルが実家で兄のミノルにもらった8ミリ映写機。そこに映っていた二人がまだ幼い時の家族の風景。
邪心のない姿。「あの頃の自分の姿」
私も実家で見つけた録音機に、小学1年生くらいの頃録音された自分の声を聴いて涙したことを思い出した。何気なく、作為なく、ただ思った言葉を録音しただけのテープ。
物語でも、タケルがそんな純粋だった自分自身を、兄と家族を見てしまうことで、ようやく本来の自分自身を取り戻した。
タイトルの「ゆれる」は、文字通り古い吊り橋の揺れ、そして兄の心の揺れ、タケルの心の揺れのことだろう。
そしてそれは「ゆれる」ので、良くも悪くもなる。その揺れる様をこの作品は描いているのだろう。
その心の揺れを、裁判というモチーフを使って描き出している。
吊り橋の上で起きた出来事を誘引したそもそもの原因は、タケルにある。ただし、タケルは何も知らないでチエコを抱いた。
実家で兄から変な質問をされても、まったくわかっていなかった。
タケルは最後に「最後まで僕が奪い、兄が奪われた」と言っていたが、この「知りえないこと」に対する罪悪感は、この作品上どのように捉えればいいのだろうか?
蓮見渓谷ではしゃぐ兄。チエコはタケルに「ミノルはもう気づいているよ」という。
地方人の東京への憧れ。夢や希望と対照的な地方での暮らし。垢ぬけて見違えて見えるタケルの風貌。
チエコにはタケルが都会人に見えて、実家を継ぐミノルに魅力は感じない。母の法要で立ち寄ったそのGSで、タケルはチエコに気づく、彼女もまたタケルに気づくが声を掛けずにいたのは、田舎特有の気恥ずかしさなのか、それともほかに意味があったのか?
些細な気持ちを隠してしまう習慣、または地方性、それともそれは彼ら特有のことなのか?
2度目は平気な顔で飯でも行こうとする。
ミノルはその際なぜタケルに飯代を握らせたのだろう? カメラワークは休憩室の中からだから、その視点はおそらくチエコだ。そうであれば、ミノルはチエコに見せるように格好つけたのだろう。
また、帰宅したタケルになぜカマを掛けたのだろう?
ミノルの行為が裏目に出ている。それがこの兄弟のいつものことなのか?
ミノルがタケルに対して思っていた本心は、「初めから人を疑って、最後まで一度も信じたりしないのが、俺の知っているタケルだ」というセリフそのままなのだろうか?
ミノルはいつも兄を演じて弟を守り、裏切られても知らん顔をしてきた裏返しの言葉か?
証言台に立つタケルの「ウソの証言」に対し、薄ら笑いを浮かべながら聞くミノルの内心はきっと、「そら、俺の言った通りだろ」というところだろう。
弟を最後まで信じていなかったのは、むしろミノルの方ではないのか?
その前の法廷で、検察が示した証拠に、チエコと第三者との性的関係が示されたとき、その相手が誰なのか、ミノルはその関係をどのように思っていたのか、ミノルがなぜあの吊り橋を渡ろうとしたのか、タケルにはすべてがつながった。
ミノルは二人の関係を知り、でもチエコが好きだったことで、どうしてもチエコをタケルに渡したくない思いが、あの事故を引き起こしたことを、タケルはすべてわかってしまったのだ。
しかし、その直後の面会でミノルから「初めから人を疑って、最後まで一度も信じたりしないのが、俺の知っているタケルだ」と言われたことは、タケルが一番他人に知られたくないものだった。そう言いきれればその通りになるが、実際はどうだろう。
人は、たとえそれが事実であったとしても、自分自身認識していないことにどれだけ腹を立てることができるだろう?
タケルはそれを認識していたということになる。ただその他のエピソードがないのでわからない。そしてそのセリフと、ミノルが認識しているタケルとチエコの関係が明らかになり、お互いにそれを共有したことで出たセリフとは思えない。だからそこがわからなかった。
タケルは証言台で真逆のことを話した。そして実刑7年の判決。
口先でも「一番信じていた兄」に対する背徳行為。
タケルの心の闇。
作品はそのような闇は誰にでもあると言いたいのだろうか? それは、何か特別な出来事によって発生したのではなく、長年積み重ねてきた「もの」だと言いたいのだろうか?
想い出の8ミリの中の、汚れなき頃の自分を見て泣いたのは、知らず知らずのうちに汚れてしまった自分自身に対する赦しではないのか?
確かに毎回タケルが奪い、ミノルが奪われたのかもしれない。そのことで不信になったのはミノルの方で、タケルが、そんなミノルを断罪したのだ。
8ミリを見てタケルはミノルと断罪した自分自身を許した。
ミノルは獄中何を考えていたのだろう?
実家とは逆方向に向かうバス停。
大通りの騒音は、あの日の吊り橋との距離感と似ている。
「兄ちゃん、うちに帰ろうよ」と叫ぶタケルの声にようやく気付いたミノル。
彼は甲府行きのバスに乗り込んだのだろうか?
物語は無神経なタケルから始まり、兄の本心に触れ、兄を断罪し、汚れのない自分自身を8ミリの中で見つけ、出所した兄を迎えに行くまでを描いている。
ミノルの心中はわからないままだが、彼もまた自分自身を取り戻す作業に入るのだろう。
自分を断罪した弟が迎えに来たことに微妙な心の変化が彼の表情に出ていた。
すべて諦めた中から出てきた希望の種を、ミノルは見たに違いない。
ミノルのあのセルフ、チエコの微妙な表情の意味、「知りえない」ことを問う是非、若干掴みにくい箇所があったが、そういった部分が見直されながら発展している邦画は、本当に素晴らしいと思った。
吊り橋だけにあらず
積年の兄弟の確執、その親兄弟のそれ
田舎のガソリンスタンドと都会の写真家
田舎のガソリンスタンドと弁護士…
田舎町で、人生が色褪せていく、都会に行く機会を決断できなかった女…真木よう子、ハマり役
結局、、吊り橋で、兄は女を突き飛ばしたのか否か…
そこは、観る側に委ねられているようだが…
面会での兄の一言にハッとした
お前は、犯罪者の、家族になりたくないだけだ
橋がゆれる。ゆれる事実。
兄妹の関係がゆれる。
兄ちゃん、うちに帰ろう、と叫ぶ猛。
それを見つけて微笑む稔は、どんな感情だったのだろうか。
あの微笑みは、橋を踏み外した猛をつなぎとめたようにも思える。壊れかけていても、まだつながったままの橋が二人をむすぶ。
橋は二人の関係を象徴している。橋は対等である必要は無い。どちらに傾いていても、橋は谷をつなぐ。
稔の人生を奪い、七年を奪い、智恵子を奪った猛も、繋がっている。
私が一つ疑問なのは、事件の時、橋での会話が猛に聞こえていたのかどうかという点だ。「あなたやお母さんみたいに生きたくないのよ」と叫んだ智恵子は猛の妄想だったのだろうか。だとしたら恐ろしい。しかも、事件直後、猛は爪痕のついた稔の腕をシャツで覆っている。智恵子の腕を掴んだという事実を稔が認識しにくくするため? 意図的だったのだろうか、ただの考えすぎなのか。
音の工夫が面白かった。事件の時も沈黙で、こちらに想像させる作りだった。自然音もBGMも良い。家に帰ろうという言葉には感動した。
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