劇場公開日 2016年3月5日

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「超クソまじめなSF 恋愛と条件について人々に再考する機会を提示している」ロブスター R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5超クソまじめなSF 恋愛と条件について人々に再考する機会を提示している

2024年4月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

難しい

冒頭 車を運転する女性は、いったい誰なのだろうか?
ナレーターの女性だと思っていたが、それは主人公が森で愛した女性だということがわかる。何故か冒頭の女性はそれ以降登場しない。
雨の中、女性が車を走らせて降りた場所にいたロバ。彼女は沈黙の中でそのロバを射殺。ただその映像が流れ、衝撃的なこととこの作品の謎が一気に膨張する。
SFならではの変わったルールに支配されている世界。それが求めているのが何であれ、この女性の心中が示すように、「この世界」の中では決して折り合いはつけられないというのを強烈に提示している。
面白いのは、SFにありがちなスターウォーズのオープニング字幕のように、最初に条件が示されて始まるのではなく、徐々に何が求められている世界なのかがわかる点だ。
独身者を排斥する社会。どんな理由であれ独身になればホテルに連行され、新しいパートナーを作る必要があるが、そこにはルールが設定されている。
まず二人とも同じ特徴があることが必要で、考え方もシンクロしなければならず、パートナーに対する嘘は罪で、罰が課せられる。 この世界における愛の条件だ。
期限は45日間 それを超えると好きな動物に転身させられる。
主人公の男は情のない女と結ばれるものの、彼女のあまりにも情け容赦ない行為にこれ以上嘘はつけなかった。
主人公はホテルを脱走して独身者が集う集団へ入ったものの、そこでのルールは真逆で、決してカップルになってはいけない。つまり「人を愛さない」こと。
主人公はそこである女性を好きになってしまう。その女性がこの作品のナレーションをしているのだ。
そもそも主人公は妻に捨てられた。他に愛した男ができたのだ。
最初に妻の視点で主人公との会話が始まり、続いてナレーションがその後の主人公の動きを追跡している。
この主人公二人の特徴は「近視」そして相思相愛だとお互い認めることで、一般社会ではカップルとして成立するが、独身者の集団ではそれは禁止行為だった。
やがて二人の関係がばれ、彼女は騙されて病院へ行き失明させられる。
それでもどうにかしてそこを脱出して町へ行った二人。
主人公は自分も失明すればカップルとして成立すると決心し、カフェのトイレで自分の目をナイフで突こうとする。彼女は一人カフェのソファに佇んでいる。
作品はこれで終了する。
さて、
解釈は複数あるだろうが、まずは主人公はトイレから逃げたとする説。自分の目など突けないからだ。
そこで冒頭のシーンに戻る。
彼女は何らかの事情でロバを射殺した。
彼女はそのロバの特徴を知った上で射殺した。ロバはパートナーだった人物、あるいはパートナーの浮気相手かもしれない。彼女がホテルに連行される直前の行為だったと思われる。
多種多様性がある人間性をある一定の型枠で納めることなどできない。昨今のジェンダーもそうだが、「○○ねばならない」だから「それに反することはダメだ」というものの考え方の上に、このおかしなルールが存在するSF世界があるように思う。
だから主人公の男も「ルール」は絶対だと考えている。彼女に近づく男が「近視」かどうか疑う。
このルールなるものが人間性を型枠に閉じ込めているのは歴然であるにもかかわらず、それに抵抗しようとしない構図は、現代社会のことであろうか?
次に、主人公は目を突くことなく彼女を連れて外へと出たという説。
理由は、彼女がナレーターをしているからだ。彼女そここの世界の案内人であり、記録者だ。そして、やがてこの世界の変なルールが撤廃されたのだ。こちらの方が希望が持てる。
しかし、
ホテルのメイドと独身者のリーダーはなぜ内通しているのだろうか?
二人の会話だけフランス語だったことから、出身が同じだからか? 少なくともこの二人はこの世界のルールに抵抗している。
やがて独身者の集団はホテルを襲う。目的はみな嘘をついてカップルを演じていることを認めさせること。
そしてまんまと支配人カップルの虚偽をあらわにしたが、鼻血癖のカップルは、共通の特徴の必要性を無視した。「嘘の鼻血でもお前にとやかく言われる筋合いはない」このように思っていた彼らのことが、主人公のルールは絶対という思い込みを変えたのかもしれない。
人は誰もが本当と嘘の中で生き、それでも二人の間では「折り合い」をつけているのだ。
結婚がいい例だろう。恋愛と結婚は違うというが、結局はお互いに「折り合い」をつけることで成立している。
この作品は恐ろしくまじめにこの「恋愛」について人々に考察させ、ここにルールを適用した世界がいかにディストピアかを提示しているように感じた。

R41
しろくろぱんださんのコメント
2024年4月22日

コメントありがとうございます。
この作品は本当に難解です。
恋愛に何故このようなルールがあるのか。とても不自由で縛られている様な感覚を覚えます。

ロブスターの
意味もよく分からないです。

しろくろぱんだ
talismanさんのコメント
2024年4月22日

面白いレビュー!忘れていた箇所がたくさんあったことも気づかされました。ありがとうございます!

talisman