映画 ◯月◯日、区長になる女。のレビュー・感想・評価
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「○月○日、見て元気になる映画。」
2022年の杉並区長選挙の過程を追った、というか伴走して駆け抜けた短くも熱い日々の記録。
そのポスターや題名からトンガッた映画かと思って見たら、極めてしなやかな感触の作品だった。
そして、杉並のランドマークとしてドローン撮影もされ住民から愛されている大樹のように、すっくと一本スジが通っている。
選挙の立候補者と支援者の関係は候補擁立に尽力した支援者のほうへ発言権の比重が傾くように私は感じていたが、ここでは対等に議論がなされる。
そして候補者の“愚痴”も丁寧に拾って、陣営内部の本音と本音のぶつかり合いも隠さず明かす。
選挙結果は判っているが、勝利が確定した瞬間はやはり感動的だ。
私はかつて、選挙で当選した共産党候補の事務所で万歳三唱をしている光景をネットで見て違和感を覚えたことがあったが、岸本陣営の「バンザーイなしよ」は当然といえば当然ながら清々しくて心地よい。
187票差の勝利。民主政治の要諦は「敵とともに統治すること」とはいえ、そうしたあり方を脅かす勢力もおり、岸本効果で杉並区議会は男女同数を実現させながらも順風満帆とは言い切れないようだ。
立候補を「出馬」と言って選挙戦を競馬のようなレースに見立てたり、候補者を「神輿」に例えたりする言説は、すべての人が当事者である民主主義を担保すべき選挙本来の姿を見えにくくしている。
本作は、この国の選挙が総じて民主主義のための選挙であることを今更ながらに思い出させてくれて、元気が出て勇気と希望が湧いてくるお薦めのドキュメンタリーだ。
こういう戦はステキだ
選挙のこととか、政治のこととかよくわからないけれど、自分たちの住んでる街を守りたいんだという、地域の人たちの情熱は伝わった。
願って、行動していけば、必ずついてきてくれる人がいて、その人たちの輪を広げていけば、また、戦にも勝てるんだということが分かった。それに、政治ってそういうもんだと思った。
そこに生きる住民たちの思いに応えていくのが、政治家の役目だと思う。
政党とかよく分からないけど、党を超えて、区長を支えたいんだと考える人たちが区議となったことは、すごいことだと思った。
ぜひ、頑張ってほしいと心から思う。
中高校生こそ観るべきドキュメント
選挙の結果を知ってはいても、当選シーンはとても感動的。“今回は落選だろう”と次回を見据えていた当人のあっけらかんさが印象的でした。
そして何と言っても区長選後の区議選結果が圧巻で、今後、旧態依然とした選挙運動へも様々な変化をもたらすのだろう。
しかし本当に大事なのは“岸本聡子”を選択するまでの道程なのではないだろうか。
まだまだ低い投票率ではあるが、旧態然とした御輿ではなく希望を担ぎ上げた陣営を支持した杉並区民には感謝したい。
時系列通りなのだろうが、希望や興奮の共有でカタルシスに導く監督の編集能力はかなり凄まじい。カタルシスに満足する訳にはいかないが。
普通の人が動かす地域政治
公共政策の研究者が杉並区長選に立候補して当選を果たすまでを追ったドキュメンタリーです。もともと政治活動をしているわけではない普通の人が選挙活動に参加していくところが興味深かったです。いろんな人の意見をまとめるということの難しさを感じました。結果はわかっているのに当選が決まるまでは見ているこちらもドキドキしました。不安定なカメラ、たびたび登場する監督のペット、駅名を連呼する微妙な曲など、随所に素人っぽさがあふれているのですが、地域政治に希望を感じさせてくれる作品でした。
一般人の目線での草の根活動の素晴らしさ
杉並区長選挙の結果も知らずに見ました。そもそも、監督が一般人の視点で将来、立退の事を知り杉並区政を知り、岸本さんと出会い 草の根運動に関わり まさか最後 187票差で現職に勝利、ご本人も 本当は当選するとは思わなかったと話してるのも本音だと見てる自分も感じるくらい入り込んでしまいました。ずーと満席の意味がわかりました。1つになれば政治に風穴を開けることができることを証明された映画です。
ドラマチックなドキュメンタリーに涙する
2022年6月に行われた杉並区長選挙に立候補した岸本聡子現杉並区長の出馬から当選までに密着したドキュメンタリーでした。昨年来、「劇場版 センキョナンデス」や「NO 選挙,NO LIFE」、「ハマのドン」など、政治や選挙関連のドキュメンタリーをちょくちょく観るようになりましたが、選挙に出馬したご本人にスポットを当てた作品は本作が初めてでした。そのため、候補者及びその支持者の生の声がふんだんに聞けて、非常に興味深かったです。特に岸本聡子氏は、投票日の僅か3か月ほど前にベルギーから帰国したばかりであり、市民団体が招聘したため、特定の政党が丸抱えで応援した訳でもなく、かつ出身も横浜で杉並には縁のない方だったこともあり、選挙戦は試行錯誤の連続で、陣営内部でも意見の対立が頻繁に発生していたことが描かれていました。本作はそういった内幕も余すところなく伝えており、それでも投票日に向かって選挙戦を戦っていく”素人集団”の姿は神々しくもあり、終盤に行くに従って観客の感情をも盛り上げていく創りになっていたのは、ペヤンヌマキ監督の手腕のなせる業だったと感じられました。
そして迎えた投票日翌日の開票日。現職区長だった田中良氏との大接戦を伝える終盤は、ドキュメンタリーと言うよりドラマそのもの。刻々と発表される中間集計では、岸本、田中両氏が同数で並走。最終的に187票の差で岸本氏が勝利したシーンでは、映画を観る前から岸本勝利という結果は分かっているにも関わらず、感動してもらい泣きしてしまいました。
最後に岸本氏の政治に対するスタンスについて拙い考察を。彼女は元々欧州の国際的なNGOで環境問題などに取り組んでおられたようですが、政治に関しては未経験。そんな人が、誘いがあったとはいえ何故突然区長選挙に出馬したのか?作中いくつかコメントがありましたが、一番の理由は「日本を民主化したい」という動機が最も印象的でした。ここだけ切り取ると、日本はとっくに民主主義じゃんと思いがちですが、例えば本作の舞台となった杉並区では、住民が知らぬ間に道路建設の計画が進められ、いずれ住民が立ち退かねばならぬような事態に陥っている箇所が複数あったそうです。
勿論行政側は合法的な手続きによって都市計画を遂行しようとしているのですが、民主主義、特に地方自治の本来的な原則を踏まえれば、住民の意思が反映されていない行政行為は、民主的な行政とは言えないということではないでしょうか。そういった危機意識を持った市民団体が岸本氏を招聘し、岸本氏側も祖国である日本の”民主化”のために働きたいという意思を持っていたことから、出馬に至ったというのが動機であり経緯のようです。この辺りの話、身近でありながら具体的に何をしているのか分からない基礎的な自治体の行政について、住民一人一人が関心を持つことこそ、真の民主化の第一歩なのではないかと思った次第です。
また、本作のキーワードともなった「ミュニシパリズム」についても触れておきます。「ミュニシパリズム」とは、「地域に根付いた自治的な民主主義や合意形成を重視する考え方」のことと説明されており、まさに上記のような都市計画が、住民合意の下に民主的に決定されることということになります。概念的には私も大いに同意するところなのですが、如何せん耳に全く馴染みのない言葉であり、これが日本に根付くためには、適切な翻訳語が必要なのではないかと思ったところでした。
最後にテーマソングについて。杉並区民であり、後の統一地方選挙の杉並区議会選で区議会議員になられたブランシャー明日香さんが作詞・作曲した「ミュニシパリズム」という唄を、黒猫同盟(上田ケンジと小泉今日子のユニット)が「黒猫同盟のミュニシパリズム」と題して唄っています。まさかキョンキョンの唄が聞けるとは思っていなかったので、望外のプレゼントでしたが、やはり「ミュニシパリズム」と言う言葉が今ひとつピンと来なかったのがチト残念なところでした。。。
そんな訳で、ピンと来ない部分はあったものの、ドキュメンタリーでありながら非常にドラマチックなストーリーになっていた本作の評価は、★4とします。
ミュニシパリズムとは何かを問う映画
今年初映画「○月○日、区長になる女」をポレポレ東中野で見てきました。昨日ロードショーで当面満席とのこと。私が住む杉並区は人口57万人、有権者数47万人なのですが、2022年6月の区長選挙はわずか187票という僅差で、もともとオランダに本拠がある国際NGO団体にいて選挙のわずか2ヶ月前に帰国した岸本聡子さんが現職で4期目を目指す田中良さんを破りました。爾来杉並区は市民運動が盛んな土地柄でかつ田中区長が2021年の緊急事態宣言下に群馬県に支持者とゴルフ旅行に行っていたなど言動・区政に批判があったとはいえ奇跡的な結果でした。この映画は以前は政治に無関心だったがたまたま都道の延長計画の区画整理地に住んでいた脚本家が区政や岸本聡子さんに興味を持ち、撮り貯めた映像をまとめたものです。途中の岸本さんと活動歴ン十年の市民運動家との軋轢・葛藤・昇華がリアルに小気味良く描かれていました。当選確定時のシーンは感涙もの。上映後のトークも勉強になりました。
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