ちゃわんやのはなし 四百年の旅人のレビュー・感想・評価
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400年の垢。
秀吉の朝鮮出兵の引き上げのときに、日本に連れてこられた陶工たち。実態は、拉致。文化も風習も違う日本にやってきて、その苦労はいかばかりだったろうか。差別もあっただろう、孤独に苛まれただろう、自分とは何者なのか常に自問してきただろう。400年後の今、その子孫たちは先祖から受け継いだ焼き物の技術を脈々とつなげてきた。立派なことだと思う。紹介されているのは薩摩焼、萩焼、上野焼、深川焼などなど。薩摩焼は、ほぼ全編にわたり当代15代沈壽官氏が登場し、司馬遼太郎と親しかった先代のことやご自身の修業時代の出来事を語っている。話がうまいなと思ったが、どうやら講演依頼も多く人前で話すことに慣れておられるそうだ。彼は若い時、韓国の大学院進学を志した。面接の時、「400年の垢を落として」と声をかけられたことに憤り入学を蹴った。そして自らのアイデンティティに悩む。そのときに司馬さんから「民族というのは些末なものです。種族ではありません。民族、国家を超越する、日本人として強く生ききれ」と言葉をかけてもらったそうだ。それを「トランスネイション」という司馬さん独特の言葉もいただいたそうだ。まさに"日本人とは何か。"を問い続けた司馬さんならではの言葉だと思う。
アイデンティティ、家族感に心地よい刺激もたらしてくれます
めっちゃ沁み入った✨薩摩焼として歴史に名を残す15代続く家族のおはなし。
透き通るくらい丁寧に主人公の15代沈壽官さんご自身のアイデンティティの葛藤や、家族への想いがさまざまな語り部と映像を通じて紡がれていました。
恵比寿の初日舞台挨拶に行きました。そこで15代沈壽官さんが、司会者の方から[撮影を振り返っていかがでしたか?]と聞かれ、[ドキュメンタリーというと、あらゆるところを撮影されるというイメージでしたが、監督やスタッフさん達がやわらかく側にいてくれたのであれっもう終わったの?これが映画になるの?という感じで自分が主人公って感覚がないんです]っておっしゃってました。
上映前の舞台挨拶だったのですが、鑑賞後に400年続く家族の物語が、15代沈壽官さんのありのままのありようを通じて映像化されたんだなぁとしみじみ。
お気に入りは、司馬遼太郎さんのお手紙と、字幕ロールあとのシーンです。
自分のありよう、アイデンティティ、家族感に心地よい刺激をもたらしてくれる良作でした。
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