春にして君を想う

劇場公開日:

解説

アイスランドの幻想的な光景の中、故郷を目ざす2人の老人の姿を通じて、人間の孤独と不安、生と死、自然との関わりをつづった一編。監督・脚本はアイスランドの映画界のリーダー的存在で、永瀬正敏のビデオクリップの演出も手がけているフリドリック・トール・フリドリクソン。共同脚本はエイナル・マオル・グドゥムンソン、撮影はアリ・クリスティンソン。音楽はヒルマル・オルン・ヒルマルソンで、挿入歌はシュガーキューブスの『コールド・スウェット』。主演はアイスランド演劇界を代表するギスリ・ハルドルソンとシグリドゥル・ハーガリン。助演は「ベルリン・天使の詩」のブルーノ・ガンツら。サンレモ映画祭主演男優賞、アンリ・ラングロワ映画祭主演男優賞ほか各賞を受賞。

1991年製作/82分/アイスランド・ドイツ・ノルウェー合作
原題:Börn náttúrunnar
配給:ケイブルホーグ=シネカノン
劇場公開日:1994年2月11日

ストーリー

アイスランド北部に住む78歳の農夫ソウルゲイル(ギスリ・ハルドルソン)は農業に疲れ、首都レイキャビクに住む娘を訪ねるが、10代の孫娘は彼の世界とは遠く、理解を超えていた。一緒には住めないことを知り老人ホームに入った彼は、そこで幼なじみの老婦人ステラ(シグリドゥル・ハーガリン)と再会する。彼女は両親の眠る土地に戻って死にたいという夢を抱き、何度もホームから逃げ出そうとしていた。ソウルゲイルもまた思いは同じだった。彼らはある日、ホームを抜け出した。2人はスニーカーを履き、盗んだジープを走らせる。警察の検問をかいくぐり、一歩一歩目的地に近づく彼ら。ジープが故障し、やむなく乗り捨てて歩く2人は、ある山小屋の納屋にもぐり込んで月光に照らされながら眠る。神秘に満ちた旅が終わりを告げ、ようやく故郷の土地に着き、とある家に入った彼らは、椅子に腰を下ろす。充足感に満ちたステラの頭の中に、過ぎ去った出来ことが走馬灯のように浮かび上がる。ステラは外に出て思い出の場所を歩く。我に返ったソウルゲイルは彼女がいないのに気付き探しまわると、ステラは海岸に倒れて死んでいた。ソウルゲイルが彼女を埋葬し、裸足で山に登ると天使(ブルーノ・ガンツ)が現われ彼の汚れた足をさっと撫でた。捜索隊がヘリコプターでやってくると彼は逃げ、崖で霧の中に姿を消す。やがて霧が晴れても姿を現わさなかった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第64回 アカデミー賞(1992年)

ノミネート

外国語映画賞  
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映画レビュー

4.0ブルーノ・ガンツはまた天使だったのか

2021年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 78歳の老人カップルが車を盗んで自分たちの死に場所を探す旅に出る。北欧の自然と人の暖かさを堪能できる珠玉のロードムービー。明確な目的地を持たぬ彼らの旅は、霧の中のフィヨルドを通って天国への道を行くかのようにも感じられました。船乗りが言っていた「怖がることはない。ただの幽霊さ」なんて粋な台詞も印象的だ。

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kossy

4.0まぼろし

2017年5月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

アイスランドの作品なのに、自然の繊細さや美しさがもやの様に描かれているので、まるで日本画を見ている様な錯覚に陥りました。

生きていることが、幻なのかな?
そんな風に思えるほどフィルムは儚げで、人間が美しい風景に溶け込んでいる作品でした。

だからこそ、「死」も自然と受け入れることができるのかもしれません。

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ミカ

4.5彼の地を想いかの果てへ向かう。

2015年10月25日
iPhoneアプリから投稿

彼の地を想い彼の果てへ向かう。「#映像詩」という言葉があれば正にそれ。
アイスランドの幻想景に纏われたその物語は、もはや「#文学のイデオム 」でしか語れないのではないか?ただ、ただ素晴らしい。
「ノスタルジアとは死に至る病」を起思した。
OCT.24 渋谷にて

あと、タルコフスキー な背景音も今だったらシガーロス の役割かもね(誤読か)

#ベルリン天使の歌の詩 #アイスランド #ブルーノガンツ#シガーロス#タルコフスキー

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ikalabo

4.0愛しいものを葬る美しさ

2013年9月14日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

幸せ

息を呑むほど美しい映像が続く。
まるでそこは緑に覆われた月面のような、私の知っている地球の景色ではない風景。
灰色の空、強い風、深い霧。
綿毛のような白く繊細な花が風に揺れる。
大きなスクリーンで観ればきっともっと惹きこまれただろうと思う。

写真を燃やし、年老いた犬に自ら手を下し、
終の棲家を求めて、住み慣れた土地を離れた老人。
安住の地はどこにもなく、辿り着いたのは、憧憬の彼方、生まれ育った小さな島。
愛しいものを葬り、そして自らも深い霧の中へ消えていく。

先日母が逝去した。
何も出来ない父が一人残された。
父は何も言わず一人で暮しているが、きっとさびしいのだろうし、
父自身、自分の最期について考えれば、この映画の老人のように寄る辺なさを感じているだろう。
母が介護をしていた祖母もまた老人施設へ入居した。
そこでの生活を見るたびに胸が痛む。
入居者たちが年始に書いた「今年の目標」には、早く家に帰りたい、好きなものが食べたい、自由にお金を使いたい・・・と言った言葉が並ぶ。
自由の利かない身体や言葉。だけどここではない場所での生活を望んでいる。

自分自身だってそうだ。
いまは都会で気ままに暮しているけれど、
最期にはこの老人のように行き場をなくして彷徨うかもしれない。
願うなら、生まれた土地のような深い緑に囲まれた場所で、朝の霧の中へ消え行くような最期を。

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