TAR ター

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劇場公開日:

TAR ター

解説

「イン・ザ・ベッドルーム」「リトル・チルドレン」のトッド・フィールド監督が16年ぶりに手がけた長編作品で、ケイト・ブランシェットを主演に、天才的な才能を持った女性指揮者の苦悩を描いたドラマ。

ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。

「アビエイター」「ブルージャスミン」でアカデミー賞を2度受賞しているケイト・ブランシェットが主人公リディア・ターを熱演。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、ブランシェットが「アイム・ノット・ゼア」に続き自身2度目のポルピ杯(最優秀女優賞)を受賞。また、第80回ゴールデングローブ賞でも主演女優賞(ドラマ部門)を受賞し、ブランシェットにとってはゴールデングローブ賞通算4度目の受賞となった第95回アカデミー賞では作品、監督、脚本、主演女優ほか計6部門でノミネート。

2022年製作/158分/G/アメリカ
原題:Tar
配給:ギャガ
劇場公開日:2023年5月12日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第47回 日本アカデミー賞(2024年)

ノミネート

最優秀外国作品賞  

第80回 ゴールデングローブ賞(2023年)

受賞

最優秀主演女優賞(ドラマ) ケイト・ブランシェット

ノミネート

最優秀作品賞(ドラマ)  
最優秀脚本賞 トッド・フィールド

第79回 ベネチア国際映画祭(2022年)

受賞

ボルピ杯(最優秀女優賞) ケイト・ブランシェット

出品

コンペティション部門 トッド・フィールド
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映画レビュー

5.0観る側の欲望を反映する映画?

2023年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これは何を描いた映画だったのか、よくわからない。いや、色々と描かれているのだが。例えば、キャンセルカルチャーの問題などが描かれている。しかし、キャンセルカルチャーの危険性を伝えようとしている映画で、それが一番の主題かというとそうではない気がする。傲慢なアーティストの実像が描かれているとも言えるが、それが伝えたいことだろうか。同性愛を主題にしているわけでもないし、白人階級の傲慢さを主題にしたのかどうか、それもよくわからない。何が主題であったのか、それは見る側の嗜好でいかようにも変わっていく、そんな映画なのかもしれない。だとしたら、この映画を見るというのは、それは自分自身の鏡を覗くような、そんな行為と言えるのかもしれない。自分が観たものは映画か、それとも自分自身か。
ただ一つ確実なことはケイト・ブランシェットのパフォーマンスはとてつもなく素晴らしいということだ。

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杉本穂高

4.5クラシック界による異例のサポート体制は、配信時代への危機意識の表れか

2023年5月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

興奮

世界最高峰とも称されるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が名義を使わせていることにまず驚かされる。何しろ、名門楽団の首席指揮者となった女性主人公が、その絶大な権力を使ってお気に入りの新人演奏家を大抜擢したり、後進の音楽家や学生へのパワハラがスキャンダルになったりするなど、ネガティブな要素を少なからず含む話なのだ。しかも、カラヤンがベルリンフィルの音楽監督を務めていた時期に、若手女性奏者を独断で抜擢しようとして問題になったことが実際にあったと聞く。過去の醜聞をほじくり返されるようで協力を拒んだとしてもおかしくないのに、その懐の深さに恐れ入る。

劇中で“ベルリンフィル”として出演している楽団は、実際は同じドイツのドレスデン・フィルで、主演ケイト・ブランシェットが指揮するシーンの演奏は撮影と同時に録音もされ、その音源がそのままドイツの名門レーベルであるグラモフォンからサントラ盤としてリリースされている。クラシック界の暗部をえぐり出すような問題作に対する業界挙げての積極サポートは異例にも思えるが、配信全盛の時代にクラシック界が抱く危機意識の表れだろうか。音楽配信はもちろん、短尺動画のダンスなどのBGMとしても、短い時間に効率よく楽しめる曲が好まれる傾向が強まる中、クラシックは明らかに不利。それならば、伝統にあぐらをかかず、また従来の常識にとらわれず、ファン以外にも本物のクラシック音楽が届く機会を積極的に活用していこう、という気運が高まっているのではと想像する。

ケイト・ブランシェットの演技は、指揮のパフォーマンスや後半の追い詰められていく状況も含めて、キャリア最高のレベル。今年のアカデミー賞では最多7部門受賞の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」と競って巡り合わせが悪かったが、「TAR ター」が別の年のノミネートだったら、ブランシェットが「ブルージャスミン」以来2度目のアカデミー主演女優賞を獲ってもおかしくない名演技だ。

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高森 郁哉

4.0人は一旦頂点に上り詰めると後は転落しかない!?

2023年5月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

知的

冒頭、指揮者として頂点を極めたヒロインのターは名だたる男性指揮者たちがタクトを振るクラシック・レコードを床に並べて、その中の1枚を何と足で物色する。男性主導の指揮者界を女性が制覇したことを物語る強烈なショットだ。

レズビアンを公言しているターには同性のパートナーがいるが、家事はその彼女に任せ切りだし、養子縁組で迎え入れた子供の子育ても同じくである。つまり、ターは男性のような日常を送っているのである。

そんなターがあるきっかけにより転落していくプロセスを、まるで観客を幻惑するようなホラー映画的演出を絡めて描く本作には、至るところに実在の人物や出来事が散りばめられているらしいが、それらをすべて理解するのは難しい。ターがかつてベルリン・フィルハーモニーを率いた伝説のコンダクター、ヘルベルト・フォン・カラヤンにインスパイアされたキャラクターだと聞くと、なるほど、と思うくらいだろうか。

しかし、確実に理解できるのは、性別に関係なく、人は一旦頂点に上り詰めてしまうと後は転落しかないと言うことだ。それを描く上で需要な要素となるキャンセル・カルチャー(ソーチャルメディア上でターゲットにされた特定の人物が排斥されていく形態の一つ、いわゆる炎上)も他人事ではない。

ターを演じるケイト・ブランシェットが本物の指揮者みたいに男前でかっこいい。ドイツ語も話すし、指揮棒を振る姿が板に付いている。そこが時々過剰に感じる場面もある。ラストについても解釈が分かれるところだ。一方で、ターが持つ天性のセンサーが実在する音は勿論、もしかしてあるはずのない音を察知してビリビリする感じを観る側にも味合わせてくれる音響が、随所で奏でられるクラシック音楽と共に耳を楽しませてくれる。

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清藤秀人

4.5全神経が研ぎ澄まされたブランシェットの演技に感服

2023年4月30日
PCから投稿

異色の存在感を放つ映画だ。大きな感動が仰々しく押し寄せるわけではなく、ある意味、観客を少し突き放しながら、世界で注目を集める最高峰の指揮者の日常が淡々と描かれゆく。何よりもケイト・ブランシェットの立ち振る舞いを見ているだけで圧倒されるし、音楽家としてのカリスマ性をはじめ、演奏に入る際の鋭い目線の変化から指先一本の表現性に至るまで、”演じること”の執念と途方のなさには頭がクラクラするばかり。また、主人公が音楽界や集団内で発言力や権力を維持し続ける姿にも、静かなる力学作用を観察しているかのような興味深さがある。かくも足場が完璧に組み上げられているからこそ、キャリアに亀裂が生じてからの顛末がまた際立つ。運命とは偶然か必然か。彼女はどこでボタンを掛け違えたのか。相変わらず説明を排した流れゆえ解釈や受け取り方は観客それぞれ違うだろうが、ひとりの人間に関する人物研究として非常に見応えのある作品である。

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牛津厚信
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